目を開けると目の前には見知らぬ世界が広がっていた。
いや、ここは初めて来たけど知っている場所のような気がする。
こういうのを既知感と言うのかもしれない。
目の前に広がる景色の先に何かがあるような気がし、俺は迷いもなく ただ ただ歩きだす。
そして、それに伴い周囲の景色は移り変わっていく。
最初は殺伐とした風景の土だけの場所だったが、今では足元に草が生えた風景になっている。
さらに進むと周りを木々に囲まれた泉についた。
今まで通ってきた道には生き物らしい影は見当たらなかったが、泉の近くで一匹の動物が寝ている。
犬のような姿だが犬より体格が大きく、尻尾などの形も違う。
図鑑で狼を見たことがあるが、そっくりな姿だった。
その狼が俺が来たことに気づいたらしい。
伏せていた頭を擡げて、こちらを見てきた。
狼「ん?こんなところにヒトがくるなんて珍しいね」
俺は話しかけられても、何も反応できなかった。
その狼が言葉を発して話しかけてきたのに驚いたわけではない
話しかけてきた狼が畏怖、気高さ、光輝など様々な雰囲気を纏っていたからだ。
その雰囲気に気押され、一言も言うことができなかった。
狼「キミは……この世界の匂いがするけど、向こうの世界のヒトだね。どうやって、ここまで来れたのかな?」
狼はさらに話しかけてきたが、俺はまだ答えられずにいる。
言葉を発しようとしても言葉にならず、ただ空気だけが漏れてきた。
狼「名前は……キサラギ ショウっていうのかな?」
何も言っていないはずなのに狼は俺の名を言い当てた。
ふつうは不思議に思うはずなのだろう……でも、今の俺は不思議にすら思えなかった。
狼「さっきから何も言わないんだね……言えないのかな?そうか、キミはこの世界にまだ適応していないんだね」
一人で納得したように狼はうなずいていたが、俺には何のことなのか全く分からなかった。
狼「そろそろキミのいた場所に戻った方がいいよ。ここまで来れたキミに契約の鍵をあげる……この鍵を使うかどうかはキミ次第だね」
そう狼が言い終えると同時に周囲が光りに包まれた。
眼が覚めた時には自分の部屋のベッドの中だった。