蒼く澄み渡る清らかな空……それとは反対に俺の心境は微妙だった。
俺の名前は「如月 翔(キサラギ ショウ)」ちなみに年は18歳で高校3年生だ。
まぁ、名前のことはさて置き何故、そんな心境なのか理由を話そう。
その理由はいたって簡単『いつもと変わらない一日がまた始まる』からである。
何も変わらない日々、ほぼ同じような日程で過ごす一日……こういった何も変わらない日々を続けているのが俺は嫌だった。
これじゃあ、ただ動くだけの人形と変わりないと俺は思う。
そんなことを思いつつも俺は学校から塾に行く途中だったりもする。
いつもと変わり映えのない景色を見ながら進む……ああ……憂鬱だ。
だが、そんなことを思っていると一つだけいつもと違うことが起きた。
それは塾に行く途中の交差点の横断歩道を歩いてるときだった。
「危ない!!」
突然、後方から大声が聞こえたのだ。
「……え?」
俺は声をかけられたことに反射的に振り返ろうとして、途中で振り返るのを止めていた。
横を見たときに視界いっぱいに迫ってくる物があったのだ。
それがトラックであることに気付いた時には、体が浮遊感に包まれていた。
不思議と痛みはなく、ただただ蒼い空が見えている。
そして、始まる落下……周囲の光景がスロー再生されたビデオのようにゆっくりと流れる。
薄れゆく意識の中で、一瞬ドアのような物をくぐったように見えたがそれは最期の最後で見た幻だろうと思う……
「だぁああああ!俺、死んだ!!」
驚くほど素直な考えが口から出た。
そして、上半身を起こし手足が付いているのを確認する。
後頭部や服などを見ても血……いや破れている箇所すらなかった。
(なんでだ、俺はたしかトラックに……)
自分に何が起きたのか理解できず、周囲を見渡してみる。
そして、自分の目を疑った……トラックに轢かれたときに目がおかしくなったのだろうかと。
その理由は単純明快、一面砂だらけなのである。
俗に言う砂漠というものだ。
「な、なんで俺はこんなところに……」
素直な感想、訳がわからない。
目の前の光景や今の状況が飲み込めず俺の頭は混乱していた。
(周囲にも人の影すらみえない……というより、ここは日本のどこですか?)
色々考えてみたがここにいる理由は全く思いつかない。
じりじりと照りつける太陽と手に感じる砂の感触で、実際の出来事なのだろうというのだけは理解できた。
これが現実だとすると、ここにいるより早く日陰に行った方がいいだろうと考えとりあえず移動する。
2,3時間は歩いただろうか、行けども行けども砂ばかりで変わり映えのない景色が続いていく。
周囲を見渡しても砂ばかりで日陰やオアシスといった類のものは見当たらない。
「はぁ……はぁ……砂漠ってこんなにあついのか……」
喉が渇き、砂に足を取られ思っていた以上に体力を消耗する。
そして、ついに限界がきた。
俺は砂の上に倒れ、起き上がることもできなかった。
霞ゆく視界に影が落ち、誰かが話しかけてきたような気もしたが、それはきっと幻想だろうと思った。
目を開けると、岩肌が見えた。
その岩肌で日光を遮り、涼しげな日陰ができている。
「ここは……?」
俺は上半身を起こし、周囲を見渡す。
「やっと目が覚めましたね」
「ん?」
ふと後ろから声が聞こえ、振り返る。
そこには空想上の生き物のような容姿をした者がいた。
「…………」
「ええと、どうかしました?」
「い、犬がしゃべった!?」
自分の目の前にいるのは人の容姿をしてはいるが、全身を毛でおおわれ、顔も獣に近い様子だった。
そう、いわゆる獣人である。
目の前の獣人は、頭部が犬のような形をしている、白い毛皮に覆われていた。
「犬じゃないです、狼ですよ」
獣人は、犬と言われて不満なのか頬を若干膨らませている。
子供がすねているような感じだ。
(なんだこれは……夢か……そうだ!夢に違いない。だったら殴っても痛くないよな!!)
俺は頬を思いっきり自分の腕で殴る。
結果……
「いってぇ!!」
「え?……あ、あの……大丈夫ですか?」
突然の奇行に目の前の狼人の少年が戸惑っている。
目の前の人がこのような動作をしたら、戸惑うのは必然だろう。
(この痛みからすると夢ではない……これは現実?まったく状況が読み込めない、とにかくこの獣人に何か聞いてみるか)
「あ、ああ……大丈夫だ、寝ぼけてたから活を入れただけだから」
「そ、そうだったのですか……ええと、砂漠に倒れていたのを見つけて、ここまで運んで来たのですがご気分は大丈夫ですか?」
そうか、この獣人が俺をここまで運んでくれたのか。
いわば命の恩人ということになる。
わざわざここまで運んで助けてくれたということは、危害を加えるつもりはないだろうと判断した。
「お前が助けてくれたのか、ありがとうな」
「いえいえ、でもそんな服装と装備もなしにここで何をしているのですか?」
「あー、これはちょっと……わけありで」
俺自身なにがどうなっているのかまだ読み込めていない、そんな時に聞かれても答えれることは少ないだろう。
「もしかして、この砂漠の遺跡にきたのですか?」
「……遺跡?」
「ええ、この砂漠にある遺跡でして僕もそこに用があって向かってたんですよ。そちらは違うのですか?」
遺跡にどんな用があるのかはわからないが、一人でいるよりはこの周囲の地理に詳しそうなこの獣人についていった方が良さそうだ。
「そうそう、俺もその遺跡に向かおうとしてたんだ」
「奇遇ですね~、ここで会ったのも何かの縁、一緒にいきます?」
願ったり叶ったり、今いる場所もわからない俺はこの誘いを受けた。
どうせ一人になっても道もわからず、さっきのように生き倒れになるだけだろう。
「そうだな、一緒にいくか」
「はい♪よろしくお願いしますね」
目の前の獣人が手を出しだす。
俺も手を差し出し、お互い握手をする。
そういえばお互い名前すら知らない。
相手に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀だろう。
「俺は如月 翔。翔と呼んでくれ」
「僕はミーシャ・グローリーです。ミーシャと呼んでくださいね。」
簡単な自己紹介も済ませたことだし、もう少し休憩して遺跡に行く段取りになった。
数十分休憩した俺たちは荷物をまとめ、ミーシャが先導して遺跡へと向かった。